狂言『附子』で主人に「毒だから決して蓋を開けるな」と言われた桶の中に実際に入っていたものは何か。
『附子』は附子=トリカブトの毒に見立てた甘味をめぐる滑稽劇で、太郎冠者と次郎冠者が留守中に誘惑に負けて桶を開け、中にあった砂糖を舐め尽くしてしまう。室町期の日本で砂糖は大変な高級品だったため、観客は二人の欲望に共感しつつも笑う。毒と言われても甘い香りに惹かれる人間の弱さを戯画化した作品で、甘酒や白味噌は用いられない。蜂蜜も当時は限られた人しか口にできず扱いが難しい。したがって桶に入っていたのは砂糖である。