浮世絵の魅力に心を奪われ、コレクションを始めようと考えている人も多いかもしれません。しかし、木版画の収集は一見単純ですが、実は奥深い世界が広がっています。絵師の人となりや、版木の制作技術、摺り方のこつなど、浮世絵を深く理解していくことで、より価値ある作品との出会いが待っています。この10問のクイズを通して、浮世絵収集の醍醐味を少しでも感じ取っていただければと思います。初心者の方から熟練コレクターまで、木版画の世界を探求する良いきっかけになれば幸いです。
Q1 : 江戸後期に浮世絵版元として隆盛を極めた鶴屋喜右衛門(蔦屋)の得意としたジャンルは?
鶴屋喜右衛門(蔦屋吉蔵)は蔦屋重三郎とは異なるが、歌川豊国・三代豊国(国貞)らと提携し、歌舞伎役者を描いた役者絵を大量に出版したことで知られる。役者名の団扇判や大判三枚続など多様なフォーマットを手掛け、芝居興行の宣伝媒体としても機能した。蔦屋印の蔦の葉の版元印は真偽判断の重要手掛かりで、版本記載の改号や改印は発行年推定にも役立つ。役者絵は人気役者の襲名年や上演演目により市場価格が変動する。
Q2 : 国際的な取引でよく用いられる浮世絵の判型『大判(Oban)』の標準的な紙寸法はどれか?
浮世絵の判型は江戸期の和紙折裁規格に由来し、大判は半切の縦に近いサイズで約25×38cm(10×15インチ前後)が標準とされる。広重の『名所江戸百景』や国芳の武者絵の多くが大判で刷られ、迫力と細密さを両立させた黄金サイズと称される。収集では裁ち落としや裏打ちで寸法が変わるため、上下左右の余白状態や見当痕の有無を測定して判断する。判型知識は複数枚続き作品の欠品判定や額装時のトリミング回避にも不可欠である。
Q3 : 木版画紙の裏打ち修復で最も一般的に用いられる接着剤は何か?
伝統的な日本の修復現場では可逆性が高く紙への負荷が少ない小麦澱粉由来のデンプン糊が標準的に用いられる。デンプン糊は水溶性で経年での劣化生成物が少なく、再湿処理で除去や再接着が可能なため、文化財保存の原則『リバーシブル』を満たす。合成樹脂系接着剤は強度は高いが硬化後の可逆性が乏しく、将来的な修復作業を阻害する恐れがある。糊の濃度や煮溶かし時間、pH管理も裏打ちの仕上がりや紙の平滑性に大きく関わる。
Q4 : 19世紀後半のヨーロッパで浮世絵が爆発的に流行し、印象派などに影響を与えた現象を指す言葉は何か?
パリ万博(1867年・1878年)を契機に大量の浮世絵が西欧市場へ流入し、モネ、ドガ、ゴッホらが構図・色面・輪郭線に触発された。この日本趣味ブームはフランス語でジャポニスム(Japonisme)と呼ばれ、美術工芸から文学、音楽、ファッションにまで広がった。収集史の観点では、この時期に里帰りしなかった初摺り作品が欧米に多く残存したため、現代の市場でも由来が欧州旧家コレクションである場合が多い。日本国内にない稀少図を探す際、ジャポニズム期の輸出履歴を把握することが重要である。
Q5 : 浮世絵の三大名所絵シリーズ『東海道五十三次』を制作した絵師は誰か?
歌川広重は1833年頃から『東海道五十三次』全55図を刊行し、街道沿いの宿場の風景を多彩な視点で描いた。名所絵の第一人者として写実的かつ情緒ある景観表現で高い人気を博し、摺りの状態や版次によって市場価値が大きく変わるため、収集家は宿場名の雲母摺りや初摺りの藍の発色など細部を確認する。広重と他の絵師の東海道物との混同を避けることが真贋判定の第一歩となる。
Q6 : 浮世絵の長期保存に望ましい相対湿度の目安として、国立博物館などが推奨する範囲はどれか?
紙は湿度が高すぎるとカビや波打ちが生じ、低すぎても繊維の脆化が進む。国内外の博物館・図書館では温度18〜22℃、相対湿度45〜55%を標準環境として設定し、緩やかな変化に保つことを推奨している。浮世絵は和紙に植物繊維が絡んでおり湿度変動に敏感なため、調湿材を入れた保管箱やデシケーターを用いると良い。適切な湿度管理は退色抑制や糊剥れ防止にも直結し、作品価値を永く維持できる。
Q7 : 多色摺木版画で角見当と並んで基本的に用いられる、一直線の登録位置合わせを何というか?
見当は版木上に彫られた紙当て溝で、摺師が紙を正確に置く目印となる。L字形の角見当(鍵見当)と対を成すのが一直線状の引き付け見当(引付け見当)である。紙の左端または下端に当てて滑らせることで、複数枚の版木を寸分違わず重ねることが可能になった。この発明により江戸後期には精緻な多色摺が実現し、北斎・広重をはじめとする色鮮やかな浮世絵が量産された。見当痕の摩耗や改刻跡は再摺り判定の重要手掛かりにもなる。
Q8 : 葛飾北斎が刊行した絵手本『北斎漫画』の初編が世に出た西暦は?
『北斎漫画』は門人向けの絵手本として1814年に長谷川光信版から刊行された。人物・動植物・風景・妖怪など多岐にわたるスケッチが収められ、版行当初から好評を博し幕末まで15編が重ねられた。初編は筆致が生々しく、薄手和紙に濃い柿渋で表紙を染めたものが第一刷とされる。版本収集では版本奥付や裏表紙の版元改称・価格印から細かな刷り違いを見分けることが重要で、1814年版は海外でも高値で取引される。
Q9 : 版画の真贋や希少性を評価する際によく使われる用語『后摺(あとずり)』は何を指すか?
后摺は版木が摩耗あるいは版元が追加注文を受けた後に再度摺った印刷を指し、初摺りに比べ線が太り細部が甘くなる傾向がある。版面補修や彫り直しが行われる場合も多く、雲母摺りや藍の濃淡など表現が簡略化される例もある。収集家は紙質、色材、見当の欠け、彫り直し痕を観察し、初摺りと后摺を判定する。后摺でも保存状態が良ければ価値は保たれるが、初摺りと価格差が大きい点を理解して取引する必要がある。
Q10 : 現存する世界最古の大量印刷木版経典として知られる日本の遺品はどれか?
『百万塔陀羅尼』は奈良時代770年頃、称徳天皇の発願で百万基の小塔に納めるために印刷された陀羅尼経で、現存する世界最古の量産木版印刷物とされる。縦6〜7cmほどの和紙に2〜3行の陀羅尼を刷り、塔に封入した。印刷は桜材などを用いた簡素な版木ながら、均質な刷りと膨大な部数が特筆される。紙質検査や墨成分分析により奈良時代起源が裏付けられ、木版印刷史・技術史研究の基準資料としても重視される。
まとめ
いかがでしたか? 今回は木版画収集クイズをお送りしました。
皆さんは何問正解できましたか?
今回は木版画収集クイズを出題しました。
ぜひ、ほかのクイズにも挑戦してみてください!
次回のクイズもお楽しみに。